東京高等裁判所 昭和53年(う)2835号 判決
被告人 井上猪一郎
〔抄 録〕
一 所論は、要するに、(一)本件現場は、水道管埋設用地であって、公衆用道路ではない。(二)本件往来妨害罪の成立には、(1)単に他人の通行を妨害したのみで足りるものではなく、妨害行為が他人の権利侵害を構成することが必要であるのに、原判決では右通行権利者の妨害されたことを要件としていない。(2)本件投棄物件は、その種類・数量からみて、容易に収集・移動することが可能な状態であるから、かように多少の時間をかければ障害物を取り除くことが出来る場合には本罪に該当するものではない。以上の点において、原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の解釈・適用の誤りがある、というのである。
しかしながら、(一)司法警察員作成の昭和五三年四月一二日付捜査報告書(立川市役所市民部課税課資産税第二係保管の公図写及び土地登記簿謄本添付)によれば、本件現場は私道として「公衆用道路」と表示されており、現実にも日常一般公衆の通行に供されていることが証拠上明らかであるから、本罪における「陸路」に該当することは明らかであって、(最高裁昭和三二年九月一八日決定、裁判集刑事一二〇―四五七参照)本件現場の道路に水道管が埋設されているにせよ、また、建築基準法四三条、東京都建築安全条例三条のいわゆる接道義務に反する道路であるとしても、右「陸路」であることを左右するものではない。(二)次に、本件の陸路壅塞による往来妨害罪の成立には、(1)物的障害物により道路を遮断(部分的遮断を含む。)し、通行人の往来を困難ならしめる状態を作り出すことをもって足り(前記最高裁決定参照)、所論のように、通行権利者の権利行使が妨害されたことを要件とするものではない(所論引用の判例(編注、明治三七年三月七日刑二判、刑録一〇輯四二九頁)は、水利妨害罪に関するもので本件に適切なものではない。)。また、(2)その「壅塞」については、排除の容易でない方法、態様による妨害行為に限ると解すべきものではなく、それ以外においても、一般に往来を困難にならしめると認められるような方法、程度、態様において、物的障害物を道路上に堆積して遮断する場合をも含むものと解するのが相当であって、本件が右状態に至っていることは証拠上明らかである。
(西村 高山 田尾)
(編注、原判決の罪となるべき事実 被告人は、昭和五二年三月七日ころの午後三時ころ、東京都立川市富士見町一丁目二九番一一号平和荘北側の道路上において、幅約一・六メートルの右道路上に中古テレビ、茶だんす等多数のごみ及び不用品を投棄して通行を困難ならしめ、もって陸路を壅塞して往来の妨害を生ぜしめたものである。)